新エアードーム「NEXT」
2代目10メートルドーム「NEXT」現在運用しているエアードーム「NEXT」は100名収容可能な密閉型エアードーム(空気膜構造)で、アストロライナーにおいて2代目にあたります。エアードームとは、柔らかい生地を空気圧でふくらまして形成した構造物のことで、大きなものでは東京後楽園の東京ドームが有名です。この方式は、このドームの前作にあたる初代ドーム「METEO」(直径8メートル開放型)から使用していましたが、METEOには様々な問題点があり、本格的な移動公演のためにはこの解決が必要でした。 今回のドームは、METEOが老朽化して使用に耐えなくなったことから計画、METEOの製作と運用を通して得られた数々のノウハウをもとに、よりスマートで機動性を備えつつ、より大きな観客収容能力を持つ新鋭ドームとして開発されました。100名収容規模のプラネタリウムドームの移動運用は他にはまったく例がなく、機動性をもつアストロライナーを最も特徴づけるパートでもあります。
NEXTドームの構造半径5メートルの球面部はプラネタリウム装置のすべての光学系が終結するいわば巨大な光学部品です。球面部の設計には自重変形を考慮し、素材物性と各部応力解析をもとに重力補正を行って設計圧での展張時に真球となるように設計されています。この重力補正はNEXTドームで新規に導入したキーテクノロジーのひとつです。ドームを支えるための最小圧(自重バランス点)は25Pa強ですが、定格内圧は30Pa(パスカル)とし、自重バランス点よりも過剰圧を与えることで、初代ドームで致命的であったしわの抑制と安定度の向上を図っています。屋外公演では内面の汚染と雨水の侵入が問題となるため、床まで被われた密閉型を採用、初代の開放型で問題となっていた加圧初期の安定度の問題を解決し、加圧設営作業が少人数でできるようになりました。 内部加圧は誘導電動機による40ワットの業務用有圧換気扇で、サイリスター制御による加圧制御を行っています。送風による完全展張までの所要時間はおよそ30分です。(運搬、バラスト取り付け調整時間など含まず) 出入り口 エアードームでは、出入り口に特別の工夫が必要です。ただドアをつけただけでは、開けたとたん空気がぬけて、ドームはすぐにしぼんでしまうからです。この問題を解決するため、アストロライナーでは、2代通じて2重ドアエアロック方式を採用しています。 2つのドアは、チューブ状の気密室で接続され、片方がドーム側に取り付けられています。最初は両方のドアが閉じた状態であるとします。まず外側のドアを開き、観客を気密室内に導入します。そこで外側のドアを閉じ、つづいて内側のドアを開けば、空気を漏らさずに観客をドーム内に入場させることができます。
初代8メートルドーム「METEO」
初代ドームMETEO(写真:テレビ朝日)しかし、素材が塩化ビニルのみの単層膜で耐久性、強度に乏しかったことは致命的でした。張力によるのび、経年劣化は想像以上に激しく、数回の使用で円滑な運用に支障を来すようになりました。粘着テープによる接合部も、長期の使用によって劣化し、老朽化を早めました。また、スクリーンのシワは、演出効果の点で大きなマイナスでした。これは、外側の遮光用黒色膜に空圧をかける外壁加圧となっていたことが原因です。内壁のスクリーンを平滑に保つためには内壁加圧のほうがすぐれていることはわかっていましたが、遮光の問題から実行できなかったのです。より理想的な素材の選定が課題として残されました。 NEXTドームの開発初代ドームが使用不能となり、新エアードームの開発が始まったのは94年秋でした。その最大の課題は、ドーム素地として適した生地を見つけることでした。素材探しが難航しましたが、果たして3層構造の遮光性と反射率を有する抗張力素材を入手するめどがつき、製作は一気に現実化しました。新エアードームのねらいは、屋内外を問わず安定的に運用できる耐久性を持ちつつ、投影ドームとしてすぐれた球面性、反射率をもつことでした。形状変形の問題に対しては、経年変化の少ない抗張力素材の検討、また最大の課題である重力変形の補正設計について検討を重ねました。東京ドーム等の大型空気膜構造を手がけた建築技師に協力を依頼し、一方で張力解析と、サンプルによる物性データ測定をおこないました。 接合技術に関しては、高周波溶接装置(ウエルダ)として、MOS-FET2石による高周波電源と溶接装置の試作を試みました。しかし接合の信頼性、強度の両面で、接着剤が充分な能力を持つことがわかり、接着剤一本に絞ることにしました。 素材選定と形状設計の目処がたち、製作に入ったのは95年3月、千葉県の日大体育館を借りて、1週間という短期間内で、集中的に作業を行いました。(なお、作業では、日大理工学部天文研究会、および同精密機械工学科の方々に協力して頂きました。この場を借りてお礼したいと思います。)
ドームの形式開放型と密閉型には以下に示す通り、それぞれ一長一短があります。開放型ドーム開放型とはいっても、上に開放しているのではなく、底部が広く開いているものです。つまり、大きなおわんのような構造になっているわけです。ドームの自重により底辺が地面に密着し、気密が保たれます。ただし安定度改善のため、底部にボトムフランジがとりつけられています。ボトムフランジは内圧によって地面に押さえつけられ、気密性と安定性を高めます。一方、過剰圧時にドーム全体が浮き上がり空気を逃がす効果をもたらします。密閉型ドーム開放型とは異なり、底まで完全に閉じられたドームです。つまり、完全な袋の状態です。(ただし、NEXTドームでは底面の中心に小さな空気抜き用の穴があいています) 閉じた袋なので送風機をとりつければ簡単に膨らますことができます。また、仮にバランスを崩しても、それがもとで空気が大量に漏れることはないため、転倒の危険性は少なくなります。ただし自然に空気の逃げ道が確保されることはないため、過剰圧が起こりやすく、精密な加圧制御が必要になります。 下に、開放型ドームと密閉型ドームの特徴を対比してみます。
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