太陽系投影システム (SOLARSYSTEM PROJECTOR)



 
 

太陽系投影システムを構成する天体投影機(手前は金星、奥は木星投影機)

 夜空にはたくさんの星があります。これらのほとんどは恒星です。しかし、中には月や惑星のように、恒星よりもはるかに近くにあり、星空の間を動いて見える天体があります。それを太陽系天体といいます。
 太陽系天体は、その天体自身の動き、そして我々がいる地球自身の動きのため、あたかも恒星の間を複雑な軌跡を描いて動いてゆくようにみえます。太陽系天体の複雑な動き、年周運行を再現するには恒星の場合とは違った、特別の構造をもつ投影機が必要になります。そのために、アストロライナーには太陽系投影システムが備えられています。普通のプラネタリウムでは惑星投影機と呼んだりします。しかし、これが再現するのは惑星だけでないので「太陽系投影システム」という表現をとることにしました。
 アストロライナーには、1991年の完成以来しばらくの間、惑星投影機がありませんでした。しかし、年周運行を行う惑星投影機を!というのは、私のプラネタリウム製作一貫しての、いわば宿願でした。計画は4年も遅れましたが、1996年春に初めて惑星を含む8台の天体投影機からなる太陽系投影システムを完成、一般公開に至りました。


独立型投影機とは


機械式惑星投影機(左)と独立型の天体投影機(右)
機械式の惑星投影機は、本体投影機の中に恒星投影機とともに組み込まれます。通称”惑星棚”とよぶ重なった部分の中に、惑星の動きを再現するギヤーとリンク機構が組み込まれ、小さな投影機が動くしくみです。いっぽうの独立型投影機は、それぞれの天体投影機が任意の方向に向くような構造になっています。


 太陽系(惑星)投影機には、機械式、独立式など、いくつかの形式があります。アストロライナーの太陽系投影システムは独立型です。
 独立、という表現は、この投影機が、恒星を映すための本体投影機と分かれて独立しているからです。古い機械式プラネタリウムでは、恒星と惑星を連動させるため、本体投影機の中に、恒星球といっしょに組み込んでいたのです。
 太陽系投影システムを構成するひとつひとつの天体投影機には、機械式にみられたような、天体の運動を再現するための特別な機構・・たとえば順行や逆行などを再現するためリンク構造などはいっさいありません。天体の像を作り出す光学部のほかは、像を動かすX軸とY軸の2軸により、投影機を任意の位置に向けることのできるようになっているだけです。
 そのかわり、X軸とY軸のモーターはコンピュータで精密に制御されています。天体の動きをコンピュータで計算し、これにもとづき各投影機のX、Y軸を向けるべき角度を決定して、投影機のモーターを動かすのです。また、像の明るさや、必要に応じて姿勢なども同時にコントロールされます。この処理が高速で繰り返されることで、あたかも”見えないリンク機構”で恒星と連動しているように、つねに正しい位置に正しい天体の像が再現されるわけです。それどころか、たとえば火星から地球を見るといったような、従来の機械式ではとうていできないような場面を、いとも簡単に再現することができます。
 これはエレクトロニクスとコンピュータ技術によって実現した、いま最も進んだ方式なのです。
 


太陽系投影システムの構成

 アストロライナーの太陽系投影システムは、惑星などの、それぞれの天体を投影する天体投影機8台で成り立っています。これら天体投影機は並んで本体投影機の隣(南側)にまとめて並んでいます。その構成を次の表にならべてみました
 
 
投影機ID
投影機名
駆動軸数
補助機能
1
太陽
4軸
調光、像回転、イメージディストーション、着色
3
水星/土星
2軸
調光
4
金星
2軸
調光
5
地球
2軸
調光
6
火星
2軸
調光
7
木星
2軸
調光
8
月(未完成)
4軸
調光、像回転、位相

天体投影機の構造

 天体投影機は、それぞれあらかじめ割り当てられた天体を投影します。これは、光源ランプの光を使って天体の像をつくる光学部と、天体像を目標にむける運動部から構成されています。光学部で作られた投影ビームは、運動部により任意の方向に曲げられてからドーム上に当たり、天体の像をつくりだします。

光学部

 光学部は、小さな望遠鏡に似た外観と構造をもつ筒状の装置です。(図の右上方)
 ここでは惑星投影機について紹介します。一番後方のランプハウスには、光源が入っています。光源は小型のハロゲンランプで、金星投影機と木星投影機のばあい20ワット、その他は10ワットとなっています。ランプハウスから出た光はコンデンサーレンズで集光され、天体原板とよぶ小さな孔のあいた板を通ってから、投影レンズによってドームスクリーンに焦点を結びます。コンデンサーは直径10ミリ、投影レンズ口径は30ミリです。天体原板は、銅箔に化学エッチング法で孔をあけ、金メッキをかけて作りました。惑星の場合は孔の直径は0.1ミリ程度です。なお、太陽を映す太陽投影機の場合は光学系はもっと複雑になっています。 。
 
 

運動部

 固定された光学部から出た光を、任意の方向に向けるのが運動部です。これは、X、Y2枚の鏡と、それを動かすための2軸の回転機構を持ちます。X軸により回転する部分を、ローター(Rotor)と呼びます。一方、その他の地上に固定された部分をベース(Base)と呼びます。
 X軸は、南北方向に向いた水平の軸です。X軸が横倒しになっているこの形式を、ここでは横型投影機と呼ぶことにします。これに対して、X軸を垂直に立てる縦型もあるのですが、これには天頂付近に特異点があらわれ、この近くの動きが不自然になるという大きな欠点があります。アストロライナー初期の太陽投影機はわけあって縦型だったのですが、後に横型に変更しました。
 光学部から受けた光は、まずX偏向ミラーとY偏向ミラーで、それぞれ直角に反射されてからドーム面に向かいます。このとき、XとYの2軸の角度を変えてやることで、ミラーの姿勢がかわり、像を任意の位置にすることができます。  2軸の運動用モーターにはいずれもステッピングモーターを使っています。モーターの回転はウオームギヤで40/1に減速され、それぞれ主軸に伝えられます。なるべく回転速度を稼ぎ、かつ低速回転をスムースにするため、チョッパーマイクロステップとよぶ駆動回路を組み合わせています。
 また、南中時の重心をアンバランスさせ、ギヤのバックラッシ(あそび)による影響が出ないようになっています。


エレクトロニクスと制御装置

 天体投影機の機能は、XとY軸のモーターの回転と、光源ランプの調光です。また、ものによっては像回転(Z軸)などの補助機能もつきます。これらの機能を作動させるために、天体投影機には駆動ユニットがとりつけられています。  駆動ユニット内には、外部の太陽系制御装置とのインターフェースと、X軸モーターの駆動回路、ランプの調光回路、などが入っています。  天体投影機の電気系で要となるのは、地上固定側(ベース)と回転側(ローター)との電気的な受け渡しです。この天体投影機では、電源線と信号を分離して接続することを基本としました。  Y軸モーターの駆動回路(ドライバー)は、X軸ローター内の基板に入っています。回転するX軸ローターとコードで直結することはできないので、スリップリングによって接続しています。電源は金属接点のリングで送り、一方駆動信号は貫通シャフト内の赤外光スリップリングで送ります。いっぽうY軸の原点検出信号は、電源線に重畳させて、ローター側からベース側に返送されます。このように、金属接点は電源用のわずかに2つだけですみます。そして信頼性が必要なモーター駆動信号は光伝送により、コンパクトさと信頼性を確保しているのです。