プラネタリウム製作記
個人で本格的なプラネタリウムを建造する。本来ならば不可能とさえいえるこの計画を完遂するためには、幾年もの歳月をそのためだけに費やすことを余儀なくされました。
最初は、製作に必要なものはなにも用意されていませんでした。環境も、設備も、資金も、技術も、ほとんどゼロからスタートしたのです。高校時代に蓄積したノウハウは、3号機の中ではごく初歩的なものに過ぎませんでした。プラネタリウムを作るために必要なもの、あらゆるキーデバイスの奥へ奥へ過程の中で、時に方向を見失い、プラネタリウムという目標がおぼろげになってしまうこともありました。
それは、私がプラネタリウムを製作してゆく過程と同時に、私自身が成長してゆく過程でした。今から振り返ると、最初の頃の悩みは実に陳腐なものですが、当時は必死でした。本当に完成できるのだろうか・・時に不安に襲われながらも、しだいに技術を蓄え、一気に完成に向かって突っ走っていったと思います。
ここで紹介するのは、そんな私がプラネタリウム作りに挑んだ過程の生のドキュメントです。
高校で製作した2台のピンホール式プラネタリウム。しかし、いつしかそれに限界を感じた私は、それに続く3号機「アストロライナー」の計画を始めた。それは、アマチュアには不可能といわれたレンズ式への挑戦だった。
いよいよ設計開始。具体的な検討が始まると、レンズ式ならではの難題が怒濤のように現れてきた。未熟な私はそれらに翻弄され、悪戦苦闘しながら技術の足固めを進めていった。やがて、恒星投影機開発の足がかりがつかめてきた
星空の元になる恒星原板は、レンズ式プラネタリウムのアマチュア自作を阻む最大の要因でもあった。専門メーカーもそろって製造法を極秘としているのは、その製作のむずかしさと、その出来具合が星空の再現力に直結するキーデバイスだからだ。素人同然の状態で恒星原板に挑み始めた私は、試行錯誤しながらもすこしずつ技術を身につけていった。
精密技術を要する恒星原板を、個人がどのようにして実現すればいいのか?「そうだ。縮小撮影などせず、いきなり原寸で焼き付けたらどうだろう?」難題に押しつぶされそうになっていた私に一筋の希望を与えたのは、半導体製造装置にヒントをえた原寸露光装置「マイクロプロッター」のアイディアだった。
けれども、それを実現するにはさらに多くのハードルを越えねばならなかった。コンピュータ制御、そして精密駆動するXYステージ。写真処理のバラツキ対策。フォトエッチング。埃へとの戦い。クリーンルームの自作そして膨大な星の位置を記したデータの入手・・・これらの課題をひとつひとつ克服してゆき、恒星原板の製作を現実のものへと近づけていった。
恒星をより明るく、より白い光で輝かせたい!そのために、大電流を供給する電源装置の開発に取り組んだ。しかしそれは最初の甘い想像を裏切り、恐ろしくも困難な道だった。通電と同時に部品が砕け散り、基板が炎を上げて燃えだした。途方に暮れながらもすこしずつ原因を探っていった。そんなとき、アルバイト情報誌で願ってもないアルバイトを見つけたのだった。