投影機の設計をする
 
 

ピンホール式投影機を造るには、おおまかに次の事を決める必要があります。
 
 

ドームの大きさ
光源に何を使うか?
恒星球のサイズ(直径)
投影する星の数(等級)
星の穴の大きさ

 

ここではこの各項目について説明してゆきます。
 



ドームの大きさをきめる

ドームを造る場合です(四角い部屋で投影する場合は、6畳部屋でおよそ4〜5メートルドームに相当すると考えてください)。収容人数、据え付ける場所の広さ、天井の高さなどで決めます。ドームの大きさによる違いは、大まかに次のようになります。

 
ドーム直径 収容人数 必要な天井高さ
3m 5〜10名 2〜2.5m
4m 10〜15名 2.5〜3m
5m 20〜25名 3〜4m
6m 30〜40名 3.5〜4.5m
8m 40〜60名 5〜7m

 

大きい方が迫力があるのは確かですが、ドーム・投影機ともに製作が大変になるのはもちろんですので、状況に合わせたサイズを決める必要があります。初めてであれば、5メートル以下にするのが無難でしょう。



光源を決める

投影像の質を決める大事な項目ですので慎重に選びます。ピンホール投影機用の電球は、「小さく明るい」ことが第一の条件になります。これを「輝度が高い」と表現します。しかしこれは難しいことでもあります。いくら明るくても、たとえば普通の100ワット電球のように(フィラメントの)形が大きくては意味がないのです。なぜなら、ピンホール式投影機では、星の像の大きさや形は、フィラメントのそれにそのまま対応してしまうからです。小さく鋭い星を映し出そうと思ったら、なるべくフィラメントの小さい電球を選ばなければなりません。しかし明るさとの両立はなかなか難しいことなのです。ここでは比較的容易に入手できるものとして、次の3種の電球をお勧めしておきます。
 
 
名前 フィラメントの大きさ ワット数 特徴 入手先 対応ドーム径
豆電球 0.3×1mm 0.75 簡単に入手できる。点灯が楽 模型店・電気店・文具店など 〜4m
EX電球 0.8×1mm 4 豆電球と似た形状、同一ソケット。光ムラ少ない 五藤光学 3〜5m
6Vハロゲン電球 0.6×1.5mm 10〜20 非常に明るい。熱が強いので注意。頭の部分に光ムラあり 光東電気 4〜10m

 
いずれもフィラメントの大きさが2mm以下のものです。

この中で、5メートル以下であれは、EX電球が優れています。ただし点灯回路にこつが要ります。(点灯回路についてはこちらで解説しています)

より大きなドームにはハロゲン電球が適しますが、頭の部分にチップとよぶくびれがあり、光ムラが生じるのが難点です。その点を見越して使うか、複数を組み合わせて改善するなどの対策が必要です。
 



恒星球のサイズを決める

投影機の大きさも、光源と同様に星像のシャープさを決める重要な項目になります。たとえば、懐中電灯で手の影を壁に映すときを考えてみてください。手を電灯から遠ざけるほど、手の影はくっきり(シャープに)しますね。これと同じ理屈で、投影機の穴を光源から遠ざける、つまり投影機を大きくする方が、星像はきれいになります。

ただし、投影機が大きくなることは、その分視界を妨げ、客席のスペースも圧迫することを意味します。したがって、両者のトレードオフによって最適な値を決める必要があるのです。

投影機で映し出される星像の大きさ(穴がじゅうぶん小さいとする)はおおよそ次の式であらわすことができます。

星像の直径=フィラメントの大きさ×(ドームの直径−投影機の直径)/投影機の直径 

つまり恒星球の大きさが大きいほど、像がシャープになることがわかります。

ただ、実際の見えかたは数字からでは想像しにくいので、できるだけ投影テストをして決めるほうがいいと思います。

また、投影機の大きさが実際にどのくらいの大きさまで許せるかは、投影機全体の形状や製作者の見方によって変わりますので一概にはいえないのですが、一般的に、恒星球の直径が、ドーム直径の10分の1を超えると、その大きさが気にになりだすようです。どんなにがんばっても5分の1が限界でしょう。ですから、たとえば直径3メートルドームですと、直径30センチくらいが無難、星像を追求する場合でも、40、せいぜい50センチくらいにとどめるのがよいことが分かります。
 



投影する星の数(等級)を決める

夜空の星のうち肉眼で見える星は6等級まで6000〜9000個程度といわれています。多くの業務用プラネタリウムでもだいたいこのくらいの数の星を投影しています。かなり膨大な数です。では我々が製作する場合は、どのくらいの星を映せばいいのでしょうか?

何等級まで投影するか(最微等級)による違いを下の表に示します。

 
 
最微等級 星の数 見えかた・特徴 主な例
4等 約500 ・大半の星座がわかる
・有名な星座は見つけやすい
・市街地郊外で見た印象
・家庭用卓上プラネタリウムの多く
・当サイト卓上プラネタリウム
5等 約1,500 ・目立たない星座もわかる
・やや山奥で見た印象
・高校・大学の自作プラネタリウムの多く
・小型業務用プラネタリウム
6等 約6,000 ・細かい星まで見え、かなり美しい
・山奥で見た印象
・中型〜大型業務用プラネタリウム(ツアイスW等)
・大平ピンホール1号機
7等 約20,000 ・きわめて美しい
・微光星だけで天の川がうっすら分かるようになる
・業務用宇宙型プラネタリウム(五藤GSS, ミノルタInfiniumなど)
・大平フィルム式2号機
8等 約50,000 ・星空の奥行き感が分かるようになる
・微光星で天の川がはっきりわかる
・大平レンズ式3号機(アストロライナー)

この表を見ると等級が1等上がるごとに、数は3〜4倍の比率で増えてゆくことがわかります。星数を増やすほど、星空が美しくなりますが、いたずらに増やせばいいものではありません。星の投影にはルールがあります。それは、等級ごとに明るさを変えるという、ごく当たり前のルールです。ところがこれがなかなか難しいのです。なぜなら、星の明るさを穴の直径で表現する場合、より暗い星まで投影するほど、明るい星と暗い星の穴の直径を大きく変えなければならないからです。
 

等級
比=2.51
比=2.25
比=2.0
比=1.75
1
2.00 
2.00 
2.00 
2.00 
2
1.26 
1.33 
1.41 
1.51 
3
0.80 
0.89 
1.00 
1.14 
4
0.50 
0.59 
0.71 
0.86 
5
0.32 
0.40 
0.50 
0.65 
6
0.20
0.26 
0.35 
0.49 
7
0.13 
0.18 
0.25 
0.37 
8
0.08 
0.12 
0.18
0.28 
星の明るさはポグソンの式として定義されています。これによると、1等級ごとに明るさは約2.5倍、1等級と6等級では、明るさにして100倍の比があります。穴の直径では10倍になります。もし1等星の穴を2ミリに設定すると、6等星は0.2ミリにしなければなりません。0.2ミリの穴あけは相当にむつかしい作業です。薄い材料を使って慎重に穴あけするか、或いは穴あけをやめてフィルム式にしなければなりません。

或いは、ポグソンの法則を正確に守るのをあきらめ、明るさの比率を小さめに設定する手もあります。私のフィルム式2号機では、フィルム式で7.0等星まで投影していましたが、1等級の明るさの比は2.25倍に設定していました。さらに小さくすると製作は楽になりますが、投影した星空は不自然なものになってしまいます。特に星数が多いときは注意が必要です。

右の表に、1等級の明るさ比をさまざまに変え、1等星の直径を2としたときの各等級の穴の直径を示してみました。できるだけ2.0以上にはしたいものです。まして、比率を無理に落として星数をかせぐのは星空のリアルさという面でかえって逆効果です。

 



穴の大きさを決める

すでに等級と星の数の項目で大半を説明してしまっていますが、具体的に何ミリにするかを決めなければなりません。大まかな目安としては、EX電球と4メートルドームの組み合わせで、1等星の直径を2ミリくらいにするとちょうど良いようです。光源が暗いほど穴を大きくする必要がありますが、星像が大きくなって団子のように見えてしまうと不自然なので、限度がありそうです。星像の直径が0.5度、大きくても1度を超えないようにするのがひとつの目やすとなるでしょう。