某電機メーカーを退社してフリーになって1年以上がたつ。そりゃ生活には大きな変動があったけれど、それ以外のささやかな変化は、買うもの、電機機器の選択肢が大きく広がったことがあげられる。それは自分の勤め先の製品に縛られなくて良くなったということである。 社員時代は、他の多くの社員と同じように何か買うときは、自社が取り組んでいるカテゴリのものであれば、ほとんど自社商品を買っていた。それが当たり前になっていた。その常識は、ある人はもともと心得ているし、心得ていない社員がいても自然に叩き込まれてしまう。たとえば自動車会社の工場では、他社製の車の乗り入れを本当に禁じている事があるらしい。僕も入社時、他社製ビデオデッキを買ったことをうっかり話して上司に「社員の自覚がない」と罵倒された苦い思い出がある。そのようにして、自社製品を買う不文律を叩き込まれていくわけだ。。。 けれども、あえて電機メーカー、いやあらゆる業種の会社に対して提言したいことがある。 それは社員になるべく他社製品を買わせたらどうかということだ。 自社商品を買う愛社精神は美しい。けれどもそればかりでは他が見えない。他社製品の事を知らずして市場で勝てるだろうか。多くの企業は、製品開発時は他社製品もきちんと調べていると言いたいだろうが、研究所で分解して調べるだけが本当の調査ではない。アンケートやコンサルやさまざまなデータをもっともらしく集めて分析しても、実感のあるデータが果たしてどれだけ出てくるか。社員自身が、ユーザーの立場で身銭を切って買って使ってみなければ、商品の本質は掴めないものだ。実際に日常を通じて使ってみれば、他社製品のあらゆることが分かり、しいては他社の強みも弱みも身にしみて分かる。これは、凄いことだぞ。 だから、ごく小さい会社や特別の事情がある場合はともかくも、会社は、社員に他社製品を積極的に買わせるようにすればいい。社員にそういってもなかなか聞かなければ(日本人気質としてはありがちだろう)、同業他社製品の購入には一定率の補助金を支給するくらいの思い切った奨励制度を作ったっていい。当然その分売り上げ減になるが、日本人だけで1億人強にたいし、せいぜい数十万のグループ社員の購入額の総額なんてたかが知れている。そのわずかなロスより、他社の品物を体験するメリットの方が大きいと思う。 会社を離れ、その心理的な束縛を離れて自由な選択ができるようになって、いろいろなメーカーの製品を買うようになった。どこの製品か、というこだわりはない。そのときの自分の目的に最も選んだものを選ぶだけだ。世の中で人気や話題あるもの、いわゆる「売れ筋」を選択する場合もあるし、逆に全然そうでないこともある。要求内容は自分次第だからだ。けれどもその自由な選択ができるようになって、改めて自分のいた会社の立ち位置が見えてきたように思う。外から当たり前のように見えることが、中にいると案外見えないものだ。それは非常に怖いことだ。自分たちを他所と比較して客観的に評価できないと、往々にして極端な自信過剰や自信喪失になり、進むべき方向を大きく見誤ってしまう。悲しいかな、そういう例はいくらでもあると思う。 他社製品を買う。そういう行動で、自分たちの閉鎖された世界を少しでも飛び出てみれば、新鮮な空気が吸え、自分たちが今、どの場所にいるのかを見定めることができる。すればおのずと進むべき方向も見えてくる。それが本当に会社に貢献することにならないか。愛社精神ということにならないか。 |
2004年9月15日 |